【米津玄師/ディスコバルーン】の歌詞の意味を徹底解釈
編集: ひいらぎ最終更新: 2020/9/19
ディスコバルーンという曲名の意味を考察
「ディスコ」は夜遊びの舞台です。日常から離れ、ひたすら踊り騒いでいることが許される場所ですから、ある種のシェルターとも言えるでしょう。
「ディスコバルーン」は、そんな「ディスコ」にふわふわと酔いしれる人々を比喩しています。浮ついた心地で幸せそうに見えますが、「バルーン」の中身が空気であることを考えると危うくも感じます。
「ディスコ」の騒々しいライトと音楽で膨らんだ「バルーン」は、果たして満たされていると言えるのでしょうか。
ディスコバルーンの歌詞の意味を徹底解釈
1番
嫌いだ嫌いだ あなたが嫌いだ
何処かへ消えてしまえばいい
嫌いなあなたは 風船みたいだ
どうせどこへまでも空っぽなのだろう
解釈あなたのことが大嫌いだ。
何処かへ消えてしまえばいいと思う。
まるで風船みたいなあなたは
どうせ空っぽなのだろう。
冒頭から「嫌い」が連発され、主人公の「あなた」に対する嫌悪の度合いが知れます。
その理由として彼が述べているのは、「あなた」が「風船みたい」に「空っぽ」であることです。
「どうせ」との諦念からは、最初から「あなた」を「嫌い」だったわけではないことが伺えますが、接触するうちに否定的な感情が積み重なってきたのでしょう、今では「消えてしまえばいい」とさえ言っています。
ところで、「空っぽ」な他人に対して嫌悪を覚えるのはなぜでしょうか。想像すると、どう働きかけても応えてくれないから、つまらなさそうだから等の理由が挙げられます。
一緒にいて何をしても何を話しても、無味乾燥な態度ばかり取られていては居心地が悪くなって当然ですし、そこから嫌悪感が芽生えたとしても不思議ではありません。
しかし、その嫌悪は近付こうと努力した末の不幸な結果であり、興味や好意の裏返しとも取れます。
何度も言葉の刃を突き立てる程に「嫌い」な相手から主人公が自ら遠ざかることをせず、代わりに「あなた」が「消えて」くれることを願っているのも、根底には嫌悪と異なる感情が潜んでいるせいかもしれません。
あなたのコインの 表裏は
どちらも同じであるようだ
アンテナが折れた ダンスフロアには
安価なつくりのビニール風船ばかりいる
解釈あなたには裏表がない。
その代り中身もない。
アンテナの機能しないこのダンスフロアにいるのは
安っぽいビニール風船ばかり。
「表裏」が「同じである」ことは、二面性がないことと言い替えられます。
一見素直な印象を受けますが、誰彼構わず本心を晒せると言うことは、羞恥も不安もないことの表れです。また「コイン」はそのまま価値と読むことができますし、「表裏」が「同じ」な場合、貨幣として役に立つこともありません。
つまり主人公にとって、「あなた」は無意味なのです。
「アンテナ」は好奇心や感受性の比喩と捉えられます。「ダンスフロア」はその機能を失っていますので、外的な刺激には無反応です。
「ビニール風船」は、針で刺すと途端に破裂するゴム製のものとは違い、小さな穴程度の傷では萎みません。
踊り享楽にふける人々に、主人公は「あなた」に対するものと同様の嫌悪を寄せているようです。
かたっぽの靴脱げて何処かへ消えた
光って回る地球儀から振り下ろされて
解釈靴が片方脱げて何処かへ飛ばされた。
光って回る地球儀から振り落とされた。
「靴」が「脱げ」落ちて「何処かへ消えた」のは、主人公が「光って回る地球儀」にしがみついていたからだと想像できます。
「ダンスフロア」にある「光って回る地球儀」は、ミラーボールを指していると考えられますが、「地球儀」は世界を模したものですので「ディスコ」の世界観を表しているとも捉えられます。
後者の解釈を採用すると、「地球儀から振り下ろされ」た主人公は、「ディスコ」内での居場所を失ったことになります。自ら出て行ったのではありませんから、場の価値観や感性についていけなかったと考えるのが妥当でしょう。
「あなた」の代わりに主人公の「靴」が「何処かへ消えた」とは、皮肉なものです。煌びやかな世界や、そこに馴染んでいられる「あなた」を含む有象無象に、主人公が強烈な嫉妬を抱いているように感じられます。
声を揃えて慄いで
ちょっと遊んで行こうぜ
何も知らない夢のまま
死んでいけたら幸せだ
解釈せーので戦慄。
気安い遊びの時間。
何も知らず一時の夢に浸ったまま
死ねるなら幸せだ。
「慄」の感情は、本能に掻き立てられるものであって、合図に従って湧いてくるものではないはずです。
「声を揃えて慄い」ていられる人々は、彼ら独自の法に則り、一定の条件下では常にぞくぞくした興奮を味わえるのかもしれませんが、それは心が震える体験とは程遠い、表面的な「遊」びに過ぎないと思われます。
「ちょっと遊んで行こうぜ」と気安く立ち寄り、「ダンスフロア」に立てば外の世界の辛苦を忘れられる、それが「ディスコ」の役割です。
一時的に快楽を貪っても、それで元気に外の世界へ戻っていければいいのですが、「空っぽ」になって楽しんでいられる空間には、一度味わったら離れられないくらいの中毒性があるのかもしれません。「アンテナが折れ」て「何も」感知できないその場所で「夢」に浸り、この世の煩わしい全てを置き去りにできるなら、なるほど「幸せ」でしょう。
しかし、「ディスコ」に嫌悪と嫉妬を抱いている主人公は、心酔した「夢のまま」ではいられませんし、踊る人々が享受しているであろう「幸せ」を肯定することもできないようです。
2番
嫌いだ嫌いだ あなたが嫌いだ
何処かへ消えてしまえばいい
嫌いなあなたは 風船みたいだ
どうせどこへまでも空っぽだ
解釈あなたのことが大嫌いだ。
何処かへ消えてしまえばいいと思う。
まるで風船みたいなあなたは
どうせ空っぽなのだ。
「空っぽなのだろう」との余白を残した表現が「空っぽだ」と断定に変わりました。
「あなた」の属する空間に羨望しつつ、主人公はそこに自分が溶け込むことはできないとわかっています。強まった諦念が歪みを生じたことが伺えます。
あなたのコインの 表裏は
どちらも同じであるようだ
アンテナが折れた ダンスフロアには
安価なつくりのビニール風船ばかりいる
解釈あなたには裏表がない。
その代り中身もない。
アンテナの機能しないこのダンスフロアにいるのは
安っぽいビニール風船ばかり。
一度解釈したので割愛します。
美徳などありはしない 受け取る心もない
光って回る地球儀が落ちた
解釈美徳などここにはないし、感知されることもない。
光って回る地球儀が落ちた。
「空っぽ」で周囲の一切を無視する「風船」たちには、「美徳」など無意味です。仮に主人公が説得を試みたところで、彼らには「受け取る心もない」ことが既に知れています。
唐突に「光って回る地球儀が落ちた」のは、主人公の「ディスコ」に対する嫌悪が壊滅的な程に高まったことを表していると解釈できます。
肥える産廃火を持って
ちょっと遊んで行こうぜ
何も知らない夢のまま
死んでいけたら幸せだ
解釈膨れ上がる産業廃棄物に火を付けて
気安い遊びの時間。
何も知らず一時の夢に浸ったまま
死ねるなら幸せだ。
「肥える産廃」は、短絡的に増え続けるゴミと読み替えることができますが、主人公の感情がかつてなく高まった状況下ですから、「ビニール風船」を更に辛辣に言い換えた表現とも捉えられます。
それが「火を持」つことは、「風船」たちが高揚感を得ることと考えられます。
文字通りに解釈すれば火災になりますが、それでも「ちょっと遊んで行こうぜ」と軽々しく受け流しています。「どうせどこへまでも空っぽ」な「あなた」たちでは、すぐ傍で災害が起ころうとお構いなしに踊り続けるかもしれません。
声が西へと抜けていく
ちょっと遊んで行こうぜ
何も知らない夢のまま
死んでいけたら幸せだ
解釈声は人の耳を素通りする。
気安い遊びの時間。
何も知らず一時の夢に浸ったまま
死ねるなら幸せだ。
「声が西へと抜けていく」ことは、主人公の「声」つまり意見や訴えが、誰にも聞き取られずに素通りしてしまうことと解釈できます。また「西」は日の沈む方角ですから、「ディスコ」の栄える夜に繋がります。
憧れて近付けず、憎悪しても無視され、主人公は「あなた」たちとは別種の「空っぽ」を感じているはずです。「夢のまま」の生ではなく「死」に「幸せ」を重ねているのも、拭いきれない逆恨みの表れだと考えられます。
声を揃えて慄いで
ちょっと遊んで行こうぜ
何も知らない夢のまま
死んでいけたら幸せだ
解釈せーので戦慄。
気安い遊びの時間。
何も知らず一時の夢に浸ったまま
死ねるなら幸せだ。
一度解釈したので割愛します。